親知らずの存在およびポステリア・ディスクレパンシー
現代人の多くは第3大臼歯(親知らず:上の写真の赤丸)の萌出スペースが不足して、後方大臼歯部(後ろの奥歯)の埋伏という病的環境を生み出しているのは、ポステリア・ディスクレパンシーの問題と考えるべきである。ポステリア・ディスクレパンシーとは後方の大臼歯部のアゴの大きさに対する後方臼歯部の幅の総和との差のことである。
ポステリア・ディスクレパンシーの問題点は、上記に示す萌出スペースの不足による、単に歯の埋伏という問題(赤丸の部分)ではなく、下記の成長発達 期でのパノラマ写真に示すような、萌出スペースの不足および後方臼歯の萌出に伴う前方の大臼歯の挺出による咬合干渉に伴う顎顔面の成長発育(下アゴの偏移)への影響など 歯科的に重要な問題につながっていると考えるべきでる。
下記には、ポステリア・ディスクレパンシーによる前歯部の叢生(ガタガタ)および左側へのアゴの偏移を起こした症例(患者:山本誠二)を示す。この ような叢生症状は、単にアゴの大きさに対する歯の幅の総和の差によって生じたと考えるのではなく、顎顔面頭蓋全体の成長発育において何らかの不調和が起 こった結果と考えるべきである。その1つの要因としてポステリア・ディスクレパンシーによる大臼歯部の前方への傾斜によって適切な咬合高径(噛み合わせの 高さ)が得られず、さらに上顎大臼歯部の咬合平面も急傾斜となったため、二次的に下アゴの前方への適応が適切に行われなかったものと考えられる。
下にはパノラマ写真を示します。親知らずが存在し、これが歯の傾斜を引き起こし、噛み合わせ及び下アゴの位置のズレを引き起こす一因になっているため抜歯の必要があります。
ポステリア・ディスクレパンシーにより開咬状態を引き起こした症例
上記には、成人の歯列の変化を示す。初診時には正常な前歯部および臼歯部の関係を示していた。しかしながら、2年後には前歯部には開口状態(臼歯部は噛んでいるが前歯部はあたっていない状態:下右の拡大写真)となり、前歯部ではものが噛み切れない状態となっていた
下記にはパノラマレントゲン写真を示す。右上以外の親知らずは萌出が認めら、ポステリア・ディスクレパンシーのため親知らずの萌出により臼歯部の過 剰な挺出となるが、口の周囲の筋肉の弱さ(ファンクショナル・マトリックス)により前方への下アゴの回転という適応が起きなかったために前歯部の開口が発 現したと考察される。今後、右上の親知らずの存在のため開口状態は増長することが予測されるため親知らずの抜去を検討しなければならない。
ポステリア・ディスクレパンシー予防のための親知らずの歯胚除去
ポステリア・ディスクレパンシーの存在は、第2大臼歯、第3大臼歯の萌出過程で咬合平面を変化させ下アゴの成長に影響する重大な要因となっている。 この問題を抱えている症例の噛み合わせの誘導においてポステリア・ディスクレパンシーの解消のために後方大臼歯の早期抜歯が必要になることが多い。下の写真のように早期に処置することにより、親知らずの歯胚はゲル状であり、生体への侵襲が少ないと考えられます(上記の成人での親知らずは石灰化が進んだ場合の抜歯では抜去歯の分割および処置上の問題のため生体への侵襲が非常に大きい)。